kausatu2013.07.27

真実の光化学スモッグ　① (2013.07.27)

１９７０年（昭和４５年）７月１８日の土曜日に、日本で最初の光化学スモッグが発生したと言われる事件が起きたわけですが、まずは事故当日の朝日、毎日、読売三誌の夕刊を見てみましょう。

写真２

毎日新聞だけに写真が掲載されていました。
事故当日、東京立正高校は、かけつけたパトカーと救急車でごったがえしています。

まずは朝日新聞ですが、次のように見出しが躍っています。

校庭の高校生ら

４０数人が倒れる

杉並　新建材焼いたガスか

記事は短いですが、以下の通りです。

東京消防庁に入った連絡によると十八日午後一時過ぎ、東京都杉並区堀ノ内二丁目、東京立正高校のグランドでソフトボールをしていた女子生徒二十一人と近くにいたこども一人が、つぎつぎに目まいのような症状を起こして倒れた。このため、同消防庁から救急車などが出動、全員を近くの三つの病院に収容した。ほか同校生十人が目の痛みを訴えた。

杉並署の調べだと、同校のすぐそばにある松ノ木郵便局でも局員が同じころはき気など不快な症状を訴えたほか、近くの人多数がはき気や目の痛みなどを覚え、午後三時現在立正高校を含め四十一人が救急車で病院に運ばれた。

杉並署で調べているが、生徒たちは突然、目が痛くなったり気持ちが悪くなったりしたという。現場周辺の工場などから有毒ガスが出て、中毒したのではないかとみて調べている。また、近くの工事現場でかなりの量の新建材を燃やしていたことがわかり、それから有毒ガスがでたのではないかとの見方も出ている。

記事の中に出てくる症状を抜き出してみると、「目まいのような症状を起こして倒れた」「目の痛み」「はき気」「気持ちが悪くなる」などです。

「近くの工事現場でかなりの量の新建材を燃やしていた」というのは朝日新聞のスクープだと思います。

次は毎日新聞の夕刊です。

校庭の女生徒ら４１人

異常な症状で入院

杉並の立正校風で流れた薬品か

十八日午後一時一五分ごろ、東京都杉並区堀ノ内二の四一、私立東京立正高校（岩本校長）運動場で、ソフトボールや水泳の練習をしていた同校一、二年の女子生徒三十八人が急にノド、頭、目の痛みを訴え倒れる者もいた。校医室でうち七人を調査したところ、中の一人が急に血圧が下がり、症状がおかしくなったため、全員が救急車で近くの中尾病院などに収容された。

また学校のそばで遊んでいた子供たちや近所の人たち三人も同じような症状を訴え、午後三時現在、四十一人が病院に収容された。

方南病院に収容された六人は、いずれもノドに痛みを訴え、せきをして目をしょぼつかせており、中には一時的な呼吸困難と頭痛を訴えるものもいた。治療に当たった新垣医師の話では、症状は一時的なもので、生命に別条はないが、刺激性の強いガスを浴びた公算が強いという。

また東京大塚病院には二人が収容されたが、同病院では「身体の状態は正常で、目立った症状もなく、原因も病名も不明だ」といっている。

現場から約一キロ離れた～土持病院には五人の生徒が入院。土持医師によると「いずれも、せきこみがひどく軽い呼吸困難を訴えている。うち二人はかなりひどい」といい、救急車で運び込まれた時には一時的なショックから失神状態の生徒もあったという。原因は不明だが、刺激性の強いガスではないかという。

四十一人は土持病院、中尾病院、堀ノ内病院、方南病院、大塚病院など六病院に収容されたが、いずれもはき気や手足のしびれ、目の痛みを訴えている。

この日、同校は午前十時で授業を終わり、十時半からサークル活動にはいった。

ソフトボールやプールで練習をしていた生徒のうち、ソフト組の十八人がまずノドや目、頭の痛みを訴え、プールで泳いでいた生徒や教室で授業を受けていた同校隣接の立正女子短大生も同じような症状で、次々病院に収容された。

同校からの一一九番で救急車が次々出動、杉並署は同校庭を立ち入り禁止にし、東京ガス杉並営業所からも調査班が出動したが、ガス漏れの気配はなかった。

現場付近は南東側に畑や森があるが、農薬は使っていないと付近の農家の人はいっており、同署ではどこかで薬品を焼いたため南東の風に乗って刺激性ガスが流れ込んだのではないか、ともいっている。

東京立正高校・石川教頭の話

原因は全くわからない。実は私も目とノドが痛み、うがいを繰り返しているところなんです。この学校のほか杉並区堀ノ内二丁目一帯に同じような目にあっている人がいるらしい。何によるものかわからないが、これは公害みたいなものじゃないですか。こんなことは初めての経験です。

やはり記事の中の症状を抜き出してみると「ノド、頭、目の痛みを訴え倒れる」「血圧が下がり」「せきをして目をしょぼつかせ」「呼吸困難」「失神状態」「はき気や手足のしびれ」などです。

このうち朝日新聞で報じられなかった症状は、血圧低下、呼吸困難、失神状態、手足のしびれ、などですが、これは命にかかわるような危険な症状ではないでしょうか。

最後に読売新聞です。

杉並・立正高校でガス中毒

生徒四人が重傷

近くの子供含め４１人入院

十八日昼、東京・杉並区の堀ノ内二丁目一帯で、刺激性のガスようのもので突然目やノドの痛みを訴える人が続出、私立立正高校の生徒ら三十八人と同校付近の子どもら三人の計四十一人が病院に収容された。倒れた生徒の中には手足をケイレンさせるものもおり、意識不明の重症が四人。杉並署と杉並消防署で原因を調べているが、まだ原因はわからない。

練習中校庭でバタバタと

同日午前十一時半ごろ、東京都杉並区の堀ノ内二の四一、私立立正高校＝岩本校長＝の校庭で、同校のソフトボール部の女子生徒三十数人が練習中、生徒が目の痛みや吐き気、手足のしびれを訴え、バタバタと倒れはじめた。

このため、学校側では生徒をいったん医務室に収容したが病状がよくならないため、午後一時過ぎ救急車を要請、杉並消防署の救急車四台が、生徒三十八人と校庭の近くで苦しんでいた子ども三人を近くの病院に運んだが意識不明の重症四人、その他は明らかな中毒症状を呈するもの、目が痛いと訴えるものなど。収容された中には練習中のバレー、水泳部の生徒も含まれている。

学校側の話によると、始め数人が「目が痛い」と訴え、そのうちセキ込みはじめた。重傷者は「胸が苦しい」「ハキ気がする」と訴え、そのうち校庭にうつぶせに倒れたという。

また生徒が目まい、吐き気を訴える直前に、校庭に南風が吹き込んでいたが、異臭は感じられなかったという。

このほか、同校から約五百メートル離れた杉並松ノ木郵便局の職員数人も同じような症状を訴えたという。

なお東京ガスの調べによると、付近にガスの異常はないという。東京都は直ちに係員を現場に派遣して原因究明に当たっている。

収容された中島病院の話では、一酸化炭素による中毒症状によく似ているといっている。

付近の松ノ木郵便局の杉山局長の話によると「午前十時ごろからわたくしと他の四人の職員の計四人がしきりに涙が出始めた。扇風機を回すと、特に涙がひどく、職員から”扇風機に涙が出る薬でもぬったのか”と聞かれたくらいだ。わたしはいまも目の裏がチクチクするが、においは全くない」と言っている。

東京大塚病院に入院した一年生の～話によると、グランドにいた時、へんなけむりがきたと思ったら、目がチクチク気持ちが悪くなったという。午後三時になってやっと気分が少しらくになったといっている。

収容された病院と患者数

土持医院　　　九人
中尾病院　　　六人
東京大塚病院　二人
方南病院　　　六人
堀ノ内外科　　八人
樺島病院　　　四人

岩本校長の話
試験休みのあと、きょう午前中、掃除を終わってクラブ活動中、第二運動場の南側でソフトボール、バレー、水泳をしていた生徒が急にむせて目が痛くなり、手に痙攣をおこすものもでてきた。びっくりして救急車を呼んだ。

記事の中の症状を抜き出してみると、「目やノドの痛み」「倒れた」「手足をケイレンさせる」「意識不明」「吐き気」「手足のしびれ」「「胸が苦しい」「目まい」「涙が出る」などで、朝日・毎日の記事にある症状と大差はありません。

以上ですが、三誌の記事をほとんどすべて掲載してしまったのは、事件当日の夕刊には、被害者や医師、学校やその周辺の関係者の、感じたままの貴重な証言があちこちに見られるからです。特に、読売新聞は最も丁寧に取材をしていて感心させられます。

朝日新聞と毎日新聞の記事からは、事件が起きたのは午後一時過ぎと読み取れますが、読売では「午前十一時半ごろ」となっています。どうやら、生徒が異常な症状を訴えて倒れはじめたのは午前十一時半ごろで、救急車の出動を要請したのが午後一時過ぎ、ということのようです。

また、松ノ木郵便局では「午前十時ごろから～涙が出始めた」と証言しており、事件はすでに午前中から始まっていたようです。

午前十時に始まったとなると、この事件が光化学スモッグによるものかどうか疑問が出てきます。さらに「生徒が目まい、吐き気を訴える直前に、校庭に南風が吹き込んでいたが、異臭は感じられなかった」ということですが、光化学スモッグの主な成分であるオゾンは臭いが強いことで知られています。

また、「へんなけむりがきたと思ったら、目がチクチク気持ちが悪くなった」という被害者の証言がありますが、オキシダントは「へんなけむり」のようにやって来るものなのでしょうか。この証言からは、たき火の煙のようなものがやってきたと理解するしかありません。「近くの工事現場でかなりの量の新建材を燃やしていた」という朝日新聞の記事と関係があるのではないでしょうか。

「中島病院の話では、一酸化炭素による中毒症状によく似ている」とあります。たしかに、立正高校では「異臭は感じられなかった」という証言があり、松ノ木郵便局でも「においは全くない」と言っています。さらに、頭痛、吐き気、目まい、痙攣、などは一酸化炭素による中毒症状です。しかし、「目やノドの痛み」は一酸化炭素による症状ではありません。したがって、この事件は一酸化炭素による中毒であると決めつけるのも早急すぎるでしょう。

以上のように、事件当日の新聞の夕刊３誌を読んで、いくつかの疑問が出てきました。次回は事件の翌日の新聞記事を検証してみようと思いますが、これらの疑問を晴らしてくれる記事が載っているでしょうか。

最後に「オゾンと光化学オキシダントの違いについて」と題されたページから引用させていただきます。

最近、光化学オキシダントとオゾンを混同して扱う議論が増えている。原因の一つとされる平成8年の環境省告示の意味は、「観測されたオゾン濃度指示値を光化学オキシダントの濃度としてもよい」ということである。しかし、実際には光化学オキシダントの濃度とすべきところが直オゾンの濃度と誤用されている。オゾンはあくまで単一の化学物質であり、光化学オキシダントは光と排気ガス中の有機物成分との相互作用で生じたエアロゾルである。エアロゾルの成分は有機物の濃度や種類、日照条件等によって大きく変化する。オゾンは指標の一つにすぎない。

　光化学スモッグがはじめて問題になったのは1955年7月のロサンゼルスである。快晴にもかかわらず視界がぼやけ、目や喉の不快感を訴える人が急増した。後の研究で、原因は自動車の排気ガスと紫外線によって引き起こされたいわゆる光化学スモッグであることがわかった。日本では、1970年７月に杉並区の高校で女生徒が目の痛みや頭痛を訴えて倒れ、病院に運び込まれる事件が起きた。その後日本の各地で同様の被害が報告されている。しかし、オゾンは名前が「臭い」というギリシャ語に由来するほど臭いが強いが、これまでに臭いを感じたという報告は見られない。臭いが感知できない濃度で障害が発生することはオゾンに携わってきた者には極めて考えにくい。

　冬に発生する本来のスモッグは亜硫酸ガスと霧が結合したものであるが、スモッグの毒性は亜硫酸ガス単独の場合の10倍以上にも達することが知られている。光化学スモッグの場合にもミストが鍵を握っている可能性も考えられる。科学は事物を分類することから進歩した。オゾンとオキシダントとを区別しない情報の氾濫は関係者にとっては迷惑な話である。なお、「オキシダント」は、中性よう化カリウム溶液からよう素を遊離するすべての酸化性物質の総称、そこから二酸化窒素を除いた物質が「光化学オキシダント」と定義されている。

日本オゾン協会はこちら

「臭いが感知できない濃度で障害が発生することは～極めて考えにくい」という部分には注目しておく必要があるでしょうね。

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