kausatu2011.03.23

スギ枯れ病について④(2011.03.23)

写真１３

疑問をもうひとつ追加します。写真９と同じパターンですが、ここには大径木のスギが３本聳え立っています。その左に梢端枯れのスギが頼りなく立っています。この枯れたスギは右側のスギの３分の２くらいの高さしかありません。どちらかといえば中低木です。なぜ、背の低いスギは先端が枯れているのでしょうか（疑問５）。

こうした疑問を解き明かすために、ひとつの仮説を立ててみようと思います。わたしは「花粉観察ライブ」において、日本の高度成長期に各地で起きた「イネ科花粉症の集団発生」と報じられた事件について、本当の原因は「家庭ゴミの自宅焼却によって発生した煙が、低く発生した逆転層によって上昇を阻まれ、その煙に含まれる塩化水素などの有害物質を住民が被爆したことによるものである」と推理しました。スギの梢端枯れについても、原因は全く同じであると考えています。

ただし、いわゆるイネ科花粉症事件の場合と違い、発生した逆転層はかなり高い位置に発生したと考えられます。そのことは、まさに、スギの枯れた姿が証明しています。目測ですが写真１～３から判断すると、逆転層はだいたい３０～４０ｍくらいの高さに比較的頻繁に発生したと思われます。いわゆるイネ科花粉症事件の場合は、校舎の２階程度の高さに逆転層が発生したものですが、その稀な発生例が事件としていくつか報道され、その後「花粉症の集団発生」であると推定されたわけです。

ところで、逆転層が発生しているときは風がほとんどないいため、焚き火をするには絶好の条件がそろいます。わたしたちは昔から、そのようなときに挙って焚き火をしてきました。そのときに発生した煙は上昇し、やがて逆転層の直下に雲のようにたなびくことになります。もし、ゴミの中にプラスティックなどの塩化物が混じっていれば、塩化水素などの有害物質が大量に発生して煙とともに上昇し、逆転層の境界下の汚染濃度が高まります。

もし、その汚染された大気にスギの葉が晒されたら、何らかの影響を受けるはずです。酸性雨に強いスギであっても、活性の強い気体であり、人を殺傷する能力さえある塩化水素ですから、わたしたちが焚き火をするたびに何度も被爆すれば枯れてしまうのではないでしょうか。それを皆さんに納得してもらうには、もう少し説明が必要です。

スギの梢端枯れは、逆転層と塩化水素のセットによるものであるとすれば、小川氏の調査報告による「スギ枯れの特徴や分布」について納得できるのです。

(1)大径木に多く、梢端から枯れ下がる。

大径木に多いというのは、調査対象のスギに大径木が多かったからでしょうか？とにかく大径木は目立ちます。梢端から枯れ下がるというのは、逆転層の境界下の汚染された空域に位置するように、そのスギの先端が存在していたから枯れたのではないでしょうか。それは中低木でも同じことです。つまり塩化水素など有害物質を被爆した部分の枝葉が枯れたのであり、大径木であるがゆえに枯れたのではないのです。そのことは、いままでに紹介した写真のスギを見れば明らかです。

(2)七〇年代に始まり、都市や周辺の平野部に多い。

この時代、物が豊かになり、地方都市にもスーパーなど大規模小売店舗が軒を連ね、大量に物を消費するようになりました。それに伴ってゴミ戦争と呼ばれるほどゴミが溢れ、行政はその処理に追われていたのです。ですから、地方の市町村ではゴミの回収が間に合わず、自宅周辺で燃やしていました。従って、都市や周辺の平野部にスギの梢端枯れが多いというのは当然のことです。

(3)光化学オキシダントの移流経路や降水量が少ない地域で著しい。

オキシダントについては別の機会に考えてみます。また、降水量の影響については私の観察からはなんとも言えません。

(4)局地的な衰退の大きさは、参道などの孤立木≧突出木・林縁木＞林内木の順で、規模の小さいスギ林や道路際の衰退が目立つ、などである。

　「参道などの孤立木や規模の小さいスギ林や道路際の衰退が目立つ」というのも、周辺の人家で家庭ゴミを燃やしていたからです。

また小川氏は「山の斜面に植えられた林業用のスギ林に梢端枯れがないのは、林内が高い湿度に保たれているからである」と報告していますが、これは単にスギ林が逆転層の上に位置していたからだと考えられます。

宮崎県では山間部に梢端枯れが発生しいてるそうなので、「林内の湿度」という説明は説得力に欠けると思います。宮崎県の例は、平野部が広大な関東地方とは事情が違うので、なぜ山間部のスギに梢端枯れが発生しているのか、のちほど考察します。次回はわたしの感じた５つの疑問について説明していきます。（　続く　）

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